騎兵の書・JRA編

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第9回 最強牝馬

 

競馬好きが集まって競馬談義になると、日本の競馬史上最強の馬はどの馬かということがよく話題にのぼるようだ。牡馬ではシンボリルドルフという声が圧倒的に多いようだが、牝馬となると意見が真っ二つに分かれる。その2頭とは、テスコガビーとメジロラモーヌ。今回は、このタイプの違う2頭の牝馬を中心に書いていきたい。
テスコガビーがクラシックに挑んだのは昭和50年。今から23年前のことだ。軽快な逃げ足で桜花賞やオークスを制しファンを魅了したが、この年の牡馬戦線はカブラヤオーが春の2冠を制しており、牡牝共に逃げ馬が活躍した年であった。ちなみに、両馬の鞍上は共に菅原泰夫JKで、春のクラシック4レースをすべて制したことになる。カブラヤオーが無事に菊花賞に駒を進めていれば、1年で全クラシック制覇も可能だっただけにとても残念だ。さて、テスコガビーの桜花賞は2着に大差をつける圧勝だった(さすがにビデオで見るしか術がない)が、それをより印象づけたのは、杉本アナウンサーの実況だ。直線に入ってあまりに後続が離されたので言うフレーズがなくなり、「後ろからはな〜んにも来ない」を連呼したのだ。この実況が、テスコガビーの強さをより際立たせたといっても過言ではないはずだ。その後のオークスでは、調子落ちの噂を振り払うがごとく、8馬身差で圧勝した。ただ、繁殖として仔を残すことなく逝ってしまったのは残念でならない。
対してメジロラモーヌは唯一の三冠牝馬である。厩舎にいる時は猫のようにおとなしかったらしいが、レースでは並んだら絶対に抜かせないすさまじい勝負根性を発揮し、見事に三冠を勝ち取った。3冠がかかったエリザベス女王杯の時は4コーナー先頭からの押し切りを狙ったが、春のようなデキにはなかったらしく、直線では2着馬に半馬身差まで迫られた。しかし、そこからがこの馬の真骨頂である。すさまじい根性で決してそれ以上差を詰められることなくゴール板を過ぎていった。永遠に詰まることのない半馬身差であっただろう。ただ、引退後の繁殖成績はおもわしくない。なかなか活躍馬が出ず、サンデーサイレンスを相手に迎えて生まれたメジロディザイアーも、平地で1つ勝ったものの成績が上がらず、すぐに見切りをつけて障害入りした。巷では、レースで完全燃焼したため繁殖に必要であろういわゆる女らしさがなくなってしまったとも言われたが、科学的には根拠になるようなものはない。ただ、初年度からいきなり不受胎になるなど確かにその徴候はあった。果たして今後走る仔を出せるかどうかは正直難しいところだと思うが、何とか頑張ってもらいたいものだ。
絶対的なスピードで大差をつけて勝ったテスコガビー、はかったかのように相手なりにチョイ差しを決めたメジロラモーヌ。どちらが強いかという話題は尽きないが、最近の馬でこの2頭に匹敵する牝馬はいるだろうか。まずは、ヒシアマゾン。この馬は、3,4歳時に比べると5,6歳時の成績や印象が今ひとつで、それが史上最強牝馬という意見に異論を挟む人がいる原因の一つであろう。私自身、一番印象に残っているのは4歳時のクリスタルCで、とても届かないような位置からタイキウルフを並ぶ間もなく差し切ったあの脚は鳥肌モノだ。見たことのない人は是非ともビデオで見ていただきたい。同じく4歳時のエリザベス女王杯では、チョウカイキャロルと叩き合いの末にハナ差で勝利をもぎ取ったが、私はむしろチョウカイキャロルの強さを再認識した感があり、あまりヒシアマゾンのことは気に留めなかった。逆に言えば、それだけヒシアマゾンが強い存在だということが頭の中にインプットされていたのだろう。だからこそ「あのヒシアマゾンとハナ差」の勝負を演じたチョウカイキャロルが強く印象に残ったのだと思う。引退後はアメリカへ旅立ったが、初仔になるヒシマサルとの仔はとも かくとして、走る仔を出して欲しいものである。ヒシアマゾンの仔がマル外として日本で走る日もそう遠くはないだろう。
現在では、エアグルーヴが史上最強牝馬に名乗りをあげるのに一番近い存在だろう。トニービン産駒はピークの期間が短い馬が多いだけに、3歳時から現在まで牡馬を相手にトップで活躍しているのは本当に素晴らしいといえる。私がエアグルーヴのレースで最も印象に残っているのは、3歳時のいちょうSだ。直線で前が詰まり急ブレーキをかけ、普通ならここで終わりだが、ゴール前で進路が開くとものすごい瞬発力で一瞬のうちに抜け出してきた。前走のエリザベス女王杯は3着に敗れてしまったが、あの敗戦は既にピークを超えてしまったものなのか、それとも80%のデキでは気性的に成長を見せたメジロドーベルの100%の力には及ばなかったのか。その答えはおそらく今週のJCで明らかになるはずだ。同時に、エアグルーヴが史上最強牝馬の議論に加わる新たな馬になるかも決まることになるだろう。

原稿 ロイヤルチャージャー

第10回 週末が待ちどおしい人たち



私は馬券を買う時はたいていWINSへ行く。WINSへは地下鉄1本で行けて競馬場より近いというのがその理由だ。もちろん夏の開催が始まると競馬場へ行くが、さすがに札幌記念などのものすごい混雑が予想される日はWINSへ行くことにしている。基本的に人ごみが苦手なのだ。さて、競馬場であれWINSであれ、そこにはいろいろなタイプの人が存在する。見ていて面白い人、尊敬できそうな人、近づきたくない人....などなど。今回はそんな人たちのことを書いていきたい。
私が学校の次によく行く場所であるWINS札幌は、市街地のど真ん中にある。7階建てで5階から上は禁煙フロアとなっており、紫煙が苦手な私にはとてもありがたい。7階にはガイドと思われるお姉さんが10人近くいて、まあ顔で選んだとはいわないまでも顔だけで落とされた人はきっといるだろう、という感じである。7階はすべて機械のためこのようなお姉さんがいるのだが、機械が苦手な年配の方にはありがたいことでも、私のような20代の若者にはちょっとしたプレッシャーになる。というのも、マークカードの塗り間違えなどで音声ガイダンスが流れるとすぐにお姉さんがやってきて、ご指導してくれるのである。自分でもどこを間違ったかわかっているので、正直いって多少うっとうしい。まあ彼女たちもそれが仕事なので仕方がないのだが。それでも、美人なお姉さんが笑顔で教えてくれるのならまあいいのだが、冷めた目で「こんなの間違えないでよ」と訴えている(ように見える)お姉さんもいる。とはいえ、70歳近い爺さんに延々と話しかけられている姿を見ると、ちょっとかわいそうにもなってくる。爺さんの話は、いつのまにかJRAに対しての批判になっていてお姉さんは 苦笑いを浮かべながら聞いている。「割のいいバイトを探してここに来ているだけのお姉さんにそんなことを聞かせてもねぇ」と周りのオジサンたちも苦笑い。ただ、オジサンたちはその風景を楽しんでいるようにも見える。たしかに、熱弁する爺さんと困り果てたお姉さんという構図がどことなくおもしろい。
そういえば、担架が出動するのを目撃したこともある。もう70歳は越えていると見受けられるご婦人が、持ってきていた携帯用の椅子に座ろうとしたところ、しりもちをついたのだ。表情は硬直してショックのせいか言葉も発せられない。もちろん自分で起き上がれない。そんなわけで担架がやってきた。もしものことがあったら寝覚め悪いなあなどと思っていたら、数レース後にはピンピンして戻ってきた。なぜかなんとなくほっとした。
ところで、この7階はなぜか年配の方の割合が高い。私はいつも必ず同じ場所に立つのだが、まわりもいつも見る顔ばかりで、初めて見る顔のほうが圧倒的に少ない。それぞれにやはりマイポジションというのがあるのだろう。そして、どこにでもいると思うのだが、この7階にも絶叫オヤジがいる。ただ、「それっ」とか「行けっ」など抽象的な言葉ばかり叫んでいて「差せっ」とか「そのままっ」、あるいはジョッキーの名前を叫んでいるのは聞いたことが無い。他の特徴としては、必ずといっていいほど午前中のレースでしかその声は聞けないのである。フロア中に響き渡る大声なのだが、いまだその姿を見たことはない。1度どんな人物なのか見てみたいものだ。他に印象に残っている人といえば「帽子の青年」だ。年齢は20代前半だと思うのだが、よれよれのズボンにしわしわのシャツ。細身で眼鏡をかけていて手塚治虫のような帽子をかぶっている、どうみてもアヤシイ人である。何回かしか目撃していないのだが、万馬券を取ったらしき時に拳を空高く突き上げて何回もガッツポーズを繰り返していた。そして、なぜこの馬券を買ったのかというような自分の理論を、周りに聞こえるほどのひと りごとで熱く語りながら換金へ向かって行った。ゴールの瞬間ジャンプして喜んだという噂もあるが、真実かどうか定かではない。
この他にも様々な人がいるが、私自身、最近一日中WINSにいるということが少なくなっていることもあり、際立って面白いという人物にはなかなか巡り合えない。いつか、報告したくてたまらないというような人物を発見したら、また書いてみようと思う。

原稿 ロイヤルチャージャー

第11回 叫びたい人たち



今年の競馬も終わり、この1年を振り返っている人、もう既に来年に目を向けている人など様々だろう。私の場合は最後の有馬記念も獲れず、もう気分が金杯に向いているのは例年通りだ。思い返してみればここ5年で有馬記念を的中させたのは1回だけだ。今年はドカンと勝負した本線が2着3着。去年も全く同じで2着3着。その前のサクラローレル−マーベラスサンデーはとりあえず当てたが収支はプラマイゼロ。他にはタイキブリザードから流してマヤノトップガンが抜け、ナリタブライアンから買ってヒシアマゾンが無印とまさに詰めが甘いとしか言いようが無い。私はこの3年間、馬券収支記録をつけているのだが、毎年年末に集計した記録を見るとイヤになってくる。それでも競馬がやめられない、というかやめたくはない。今年は前2年よりはマイナスの数字が少なくなりそうだが、たぶん掛け金が少なくなっただけで回収率から見れば今年が一番悪いだろう。ちなみに、1年でだいたいパソコンが1台買えるくらいの金額は負けている。どんなパソコンが買えるかは皆さんの想像にお任せすることにしよう。
さて、今年競馬に行ってなんとなく思ったことがある。ある日のWINSでのこと。近くに青年2人組がいて、次のレースについてああだこうだと議論している。話の内容からするとビギナーという感じではないようで、まるで周囲に聞かせるように、もっというならば自分の知識を自慢するように話しているのが気になった。その話ぶりは、まるで俺達は競馬通だよ、という感じである。そしてレースがスタート。するとその青年の1人が「おいおい逃げてるよ、どうして?」とつぶやいた。しかし、私はその発言に違和感を覚えた。なぜなら逃げているのはポートブライアンズなのだから。この馬は中長距離の逃げ馬、しかも大逃げをうつタイプだ。そこそこ競馬を知っている人ならわかっていることだし、なにより新聞を見ればわかることだ。さらに追い討ちをかけるように、最後の直線でジョッキーの名前を叫んでいたのだが、その馬ははるか後方にいて既に勝ち負けの圏外だった。間違っていたのなら格好悪いし、間違いではなくその一杯になった後方の馬を応援してシャウトしたのならよけいに恥ずかしい。それがビギナーなら全然気にかけないのだが、彼らは競馬通ぶっていただけにちょっと冷や やかな眼で見てしまった。同時に、この馬の父親は云々とよく話す自分への戒めにもなった。では、どのようなセリフが印象がいいかというと、たとえば阪神牝馬特別でオグリローマンが逃げをうったとき、はたまた先日の有馬記念でサンライズフラッグが2番手につけた時なら「おいおい、なにやってんの?」というセリフはあてはまる。ついでにオグリローマンの時なら、「これだから田原は怖いよな。なにやってくるかわかんない。」なんて付け加えればさらにプラスポイントだ。
でも、やっぱり叫ぶのはWINSか競馬場の人ごみの中でというのが好ましい。先日の有馬記念は事前に馬券を買って家のテレビでの観戦だったのだが、「河内、河内!」とひとりで叫んでいてむなしくなってしまった。メジロブライトが2着だったのでなおさらである。それでも叫ぶ場面があったからよかったものの、最近は買った馬が全く来なくて叫ぶことすらできないというパターンが多すぎる。考えてみれば、こんな大声で叫べる機会は私の生活の中で競馬以外には無いのだから、ぜひ来年は金杯からおおいに叫んで、そして笑顔で帰宅できるように願っている。

追記
軽い気持ちで始めた騎兵の書でしたが、結構大変だということに後から気づきました。書き始めれば楽しくてあっという間なんですけどね。本当は15,6回くらいいっているはずなんですけどペースダウンしてしまって今回が11回目です。とりあえず来年からも頑張っていきたいと思います。

原稿 ロイヤルチャージャー

第12回 選考における心理〜各受賞馬について



先日、1998年の年度代表馬および各部門の受賞馬が発表された。選出馬については、納得した方もいれば不満な方もいると思う。それについてはファン個々の考え方もあるだろうし、特別に思い入れのある馬もいるだろう。今回は受賞馬の是非とは離れ、選出において一票を投じた記者たちの心理や、ちょっと疑問に思う部分を考察してみたい。
まずは年度代表馬。タイキシャトルが圧倒的な票を集めて順当に選ばれた。5戦4勝、G1を3勝(うち海外1勝)ならばだれも異論はないところだろう。ところが最優秀古馬牡馬となると票の集まり方が違ってくる。サイレンススズカが票を集めてグンとタイキに迫っているのである。もちろんサイレンススズカも7戦6勝、宝塚記念を制するなど素晴らしい馬だった。票を集めて当然の馬だが、なぜ部門により票の集まり方にこのような差ができたのか。あくまで私見だが、次のように考えた人がいるからではないだろうか。タイキは年度代表馬と短距離馬の部門で選出されるだろう。サイレンスだって故障さえなければ秋のG1戦線でもっと活躍したに違いない。それならば古馬牡馬部門はサイレンスにあげてもいいんじゃないか、という感じである。結果としてはタイキが古馬牡馬部門でも選ばれたが、票の差が縮まったのはこういう事ではないかと思う。
以前、サクラバクシンオーとノースフライトが最優秀短距離馬の部門で争った事があった。1400m以下では圧倒的な強さを誇ったサクラと、マイルでは無敵だったノースフライト。どちらも甲乙つけがたい。この時、短距離部門はマイルとスプリントに選出馬を分けるべきだという議論が持ち上がった。私も強くそう思ったものだが、現在もマイラーとスプリンターは同じ短距離馬として最優秀短距離馬のタイトルを争わなくてはならない。改革がなされなかったのは、それほどの馬ならば他のタイトルも取れるだろうからわざわざ分ける事も無い、という考えが少しはあったのではないかと思っている。サイレンスとタイキの場合にしても、なにも3部門も独占しなくても古馬牡馬はサイレンスにあげればいいのに、という声をちらほら耳にした。それが、サイレンスがいかに多くのファンに愛されたかという証明なのか、それとも、なにもそんなにタイトルを独占しなくてもいいだろうという日本人的?思考から来たものなのかは判断が難しいところだ。
いちばん選考が難航したのはダート部門であろう。過去にはライブリマウント、ホクトベガなど圧倒的な強さを誇った馬がいて選考には苦労しなかっただろうが、今回はウイングアローかグルメフロンティアか、それとも該当なしか。グルメはG1とG3を1勝ずつ。ただ、G3の勝ちは中山金杯、つまり芝のレースなので純粋なダートの勝ち星はフェブラリーSの1勝だけである。対してウイングアローはG1のダービーグランプリこそ2着だったものの、他の4歳ダート交流重賞を総ナメにした。結局勝ち鞍がフェブラリーSのみのグルメより、G1勝ちが無くとも1年を通して活躍したウイングアローが選ばれ、私もそれが妥当ではないかと感じたが、果たして今年この馬が地方の強豪相手にどのようなレースを見せてくれるのか注目であり、また大いに期待したい。
ところで毎年選考の結果を見て疑問に思うことがある。わずかながら「あれっ?」と思うような票が入っているのだ。それは去年でいうならば3歳牝馬部門のプリモディーネであり、4歳牝馬部門のエガオヲミセテと該当なしのである。確かにプリモディーネはスティンガーとも対戦していないし底を見せてもいない。もしかしたら4歳クラシックで大きいところを獲るかもしれないし、票を入れた記者もそう思って1票を投じたのだと思う。しかしながら、もしそうなったとしてもこれはあくまで1998年度の投票なのである。3戦3勝負けなしで阪神3歳牝馬Sを圧倒的な強さで制したスティンガーを推すのが妥当なのではないかと私は思うのだが、皆さんはどう考えているのだろう。エガオヲミセテも同様である。暮れに古馬相手にG2を勝ったのは確かに立派だが、現時点で桜花賞と秋華賞を制したファレノプシスより上であるといえるだろうか。また、一番疑問なのが該当なしに票が入っていたことだ。G1で2勝3着1回、負けたのは桜花賞トライアルとオークスだけ。これで該当なしというならば、どのような馬なら受賞に値するのであろう。もちろんなにか思うところがあって該当なしにした のだろうが、私としては疑問に感じるばかりである。このような投票の場面では必ず二つの意見が出る。競馬に関わらずプロ野球のベストナインの記者投票などでもそうだ。ひとつは「客観的に見てふさわしいと思うものを選ぶべきだ」というもの。もうひとつは「票を投じる権利があるのだから、客観的ではなく、思い入れや好みなども含め自分の思ったとおりに投票するのが正しい」という考え方である。さきほどから書いているように私は前者の考えを推すが、それが絶対に正しいとは言いきれない。ただ投票に際しては、長年競馬を見てきた経験豊かな記者が選ばれているはずだ。その人たちが全国に数多くいる競馬ファンたちの代表だと考えれば、やはり自分の主観よりも客観的に見て判断を下して欲しいし、そうすることでファンの望むものに合致するのではないかと思う。

原稿 ロイヤルチャージャー

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